日本語表現力を磨く

 せっかく努力して英文読解力を磨いても、理解した内容を上手く日本語で表現できなければ翻訳という商品になりません。翻訳者もライターですから、書く練習が必要です。日本語を書くという経験を日ごろあまりしていないという人は、まずはどんどん文章を書くようにするのが良いです。

 本を読んだら感想をブログに上げたり、日常の何気ない出来事を文章にまとめてみるのも良い練習になります。

 文章を書いていると送り仮名や漢字の使い分け、記号表記の仕方など、気になる点がいくつも出てきます。クライアントから指示がある場合はそれに従いますが、指定されていなくて迷う場合、新聞表記の決まりごとに従って書くという判断をすることもあります。書籍の翻訳などで下記のような『記者ハンドブック』に則した表記にしてください、という指示が入る場合もあります。

 ただ、翻訳に必要な日本語力、というのは自分の文章を書くときの日本語力とは違って、原文の制約がある中で最大限ピッタリとはまる表現を探して引っ張ってくる能力でもあります。文芸翻訳者の越前敏弥先生も以前Twitterで「翻訳ができるようになるためには、翻訳するしかない」という旨のことをおっしゃっていましたが、本当にその通りだと思います。英語力を強化して背景知識をつけて内容に対する理解力を上げても、「良い日本語が浮かばない」「うまく日本語化できない」という場面はたくさんあります。これは下に挙げたような資料を使ったり類語辞典を引いたりネットで検索したりして、「ぴったりくる表現が見つかるまで悩む」という経験を積み重ねることでしか身に付かない能力です。

 つまるところ、翻訳の能力は、英語や専門知識の勉強という「インプット」と、自分で実際に文章を書いてみる+何か実際に訳してみる、という「アウトプット」の両方をしながら徐々に腕が磨かれていくのではないかと思っています。翻訳者に「経験」が求められるのも、こういうところからきているのではないでしょうか。


記者ハンドブック 第13版 新聞用字用語集

一般社団法人共同通信社 (著)

 正しい日本語を書くために翻訳者には必携。送り仮名などで迷った場合はすぐ引けるように机の傍らに置いておくのがお勧めです。


日本語表記ルールブック  日本エディタースクール (著)

薄い本ですが内容は充実しています。外来語の表記、数字の表記、単位の表し方など、迷った時にすぐに調べられるので、手元に持っていると便利です。


理科系の作文技術 木下是雄(著)

簡潔で分かりやすい文章を書くための一冊。翻訳者の夏目大さんも自身のYouTubeで紹介していらっしゃいます。(https://www.youtube.com/watch?v=jwDCdOvq2Sc

マンガ本もお勧め!


てにをは辞典    小内 一 (編集)

いわば日本語のコロケーション事典です。類書は他にもありますが、収録語数、説明文とも、この辞書が一番のお勧め。業界の翻訳者たちにも愛用者が多いようで、データ版の出版が強く望まれています。


角川類語新辞典 大野 晋 (著)、浜西 正人 (著)

日本語類語辞典ではこちらがお勧め。収録語数が多く、しっくりくる言葉を探しやすいです。

紙の辞書でも良いですが、電子辞書に入っている場合もあるので、この類語辞典が入っているものを探しても良いと思います。


翻訳訳語辞典   宮脇 孝雄 (著)

翻訳に関する多数の著作を持つ翻訳者の宮脇孝雄氏編纂の辞書。辞書というより、読み物としても楽しめる一冊。「よく見る単語だけどしっくりくる訳語が見つからない」という時に、ヒントとなる解説が豊富。思いもかけない訳語がピッタリはまることもあり、まさに目からウロコ。


新 翻訳力を鍛える本 (もっと稼げる産業翻訳者になる!)

イカロス出版(編)

翻訳者としての日本語表現力のアップは、やはり翻訳作業を通してしか身につかないという側面もあります。この本の中の「日本語力を強化する」という章も必読。


実務翻訳において和訳時に使用できる日本語表記ガイドラインとして、日本翻訳連盟(JTF)が定める『JTF日本語標準スタイルガイド(翻訳用)』があります。スタイルガイドはこちらから入手できます。

また、以下のような表記ルールがあります。詳しくはこちら

◆JTF標準スタイルガイド12のルール

1.本文を、敬体(ですます調)あるいは常体(である調)のどちらかに統一する。
2.句読点は「、」と「。」を使う。
3.常用漢字表にある漢字を主に使用する。
4.動詞の送りがなは本則に従う。
5.カタカナ語の語尾の長音は省略しない。
6.長いカタカナ複合語は中黒または半角スペースで区切る。
7.漢字、ひらがな、カタカナは全角で表記する。
8.数字とアルファベットは半角で表記する。
9.原則として記号類は全角で表記する。
10.半角文字と全角文字の間に半角スペースを入れない。
11.ピリオド(.)、カンマ(,)、スペースは半角で表記する。
12.単位の表記を統一する。